建物見学:鳴門市庁舎
2024/07/07
鳴門市庁舎を見学してきました。内藤廣さんの展示も開催されていて、鳴門市庁舎の模型が多数展示されていたし、他の建物の展示もとても充実していました。市民の方が展示を見て「(市庁舎以外の)こんな建物を設計した人が庁舎を設計したんだ」と言っていたのが印象的で、建築業界の人間であれば、内藤廣さんが庁舎を設計するということは重大ニュースだけれど、市民の方にとってはもちろんそんなことはないだろうから、こうした展示を通じて設計者を紹介できる機会があるのはとても素晴らしいことだと思いました。
休日で開庁時でないと入れない部分が多々あったので、また行きたいと思っているのですが、見に行った印象をまとめたいと思います。細かい部分から大きな部分までとても勉強になりました。
増田友也氏設計の庁舎の次の庁舎ということ
市庁舎が新築されたわけだがその隣にはこれまで使われていた市庁舎が残っている(取り壊し予定)。この元市庁舎を設計したのは増田友也氏である。建築業界では有名な方で、私の場合同じ淡路島出身ということで、(勝手に)身近に感じている。元市庁舎は建築界でも有名で、建設当時はとても先進的な技術が使われているし、建築自体のもつ力がものすごい。この庁舎の隣に設計するなんて、想像しただけでもおそろしい。このプレッシャーに挑戦できるのは日本でも数人だと思う。旧庁舎が取り壊される前の今だけ新庁舎と旧庁舎が並んでいる様子を見ることができるのだけれど、旧庁舎の存在感は何ともいえない。
設計の重心
内藤氏による新庁舎を見ての印象は、建築を支える根っこのような部分がとても大切にされているということだ。設計において何を大切にするかということを重心と例えるならば、建物の中でもグッと低い位置というかドシっとした位置に重心があるようなイメージがした。細かくは後述するが、正直な感想として、外装などのどう見えるかという部分に重心というかコストがかかっているとは言えないと思う。市庁舎という建物の性格を考えると表層に重心がいかないのは当然なことなのかもしれないが、それでも良いと思えた。重心が印象的に伝わってくるというのは建物の素晴らしさなのだと思う。
低層に価値あり
説明のビデオなどを見ると、この庁舎の基本設計では5階建てが条件であったのだそうだ、実施設計(デザインビルド)ではこれを4階建てに変更している。もしかするとフットプリントは増えているのかもしれないでれど、街を歩くと高い建物はほとんどないので、4階建てにしていることはとても価値が高いように思えた。旧庁舎と比べても高い建物が建つとその存在感が市民に与える印象は全く違っていたように思う。
防災拠点としての充実、市民に開かれた庁舎
まず印象的だったのは、防災への備えと防災拠点としての整備である。建物は免震構造で免震層はRC造で上部は鉄骨造である。過去に経験があるので低層の鉄骨造で免震をきかせるのは大変だという印象があるのだが、免震構造の実現にとてもパワーが使われているような気がする。次に印象的なのは四周に張り出しているバルコニーである。内藤氏による説明ビデオによると災害時でも市民が避難することができるし、市庁舎内部からでもすぐにバルコニーに出ることができるという意味で設置されている。驚いたのは(多分)24時間?このバルコニーに入れることである。市民に開放されていて、いつでも市庁舎のバルコニーに外部階段から上がることができる。上がってみるとバルコニーから市庁舎の中が見えるのである。市庁舎の中は秘密が多く市民がいつでもどこでも近づけるということを嫌う建物のような気がするのだが、この市庁舎ではそんなことはない、誰でもいつでも上がれてしまう。市民に開かれた市庁舎と言える。これを実現するにはいろいろな議論があったと推察する。
市民が使う場所を充実させる
上述のバルコニーに加えて、市民が使える場所、入れる場所がいくつか準備されている。市民ロビーの外にはうずしお広場というコンパクトな広場があり、イベントなどが開催されるようである。普段でも市民がちょっと座れるような場所があり、ちょうどいい大きさなのだろうと想像した。市民ロビーの一部は窓口部分を移動間仕切りで閉じることで閉庁時でも使えるようになっている。待合ロビーは資料で見ただけの部分もあるけれど、とても充実している。待合には外部空間も準備されていて、免震ピットを活用したベンチ空間はとても印象的である。
デザインビルドという方式
この市庁舎は基本設計と実施設計の設計者が違う。基本設計は大建設計が行い、デザインビルドという方式で発注された。デザインビルドは実質的には設計施工一貫方式ともいえるので、良い点も難しい点もあると思う。それでも、この庁舎の設計施工プロセスに内藤廣建築設計事務所が関わることでとてもいい市庁舎が実現した。設計者に発注される形も様々になっている時代と言える(そんな時代が来てからだいぶ経つのかもしれない)けれど、設計者は実現する建物を使う人のことを思い、まちのことを思って設計する。当たり前だけれどもそれは変わらないんだと、刺激を受けた。
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